沖縄戦であまりにも資料が残っていない沖縄県。
県外のみならず、国外の資料が頼みの綱になっている現状で、
国立公文書館にはとてもお世話になっていて、
明治13年に「沖縄県各間切諸島地頭代以下役俸給与ノ件」という文献から、
地方役人の名称などを読み解くのに役立てることができる。
今でいう村長的な役割をしていたのが「地頭代(ジトゥデェ)」と呼ばれて、
役割だけで言えば、
明治30年に「間切長」という役職が設けられ、
旧中城間切(現中城村・北中城村)の初代間切長は「大田為淳」であり、
明治41年から「中城間切」は「中城村」になり、
大田為淳もそのまま初代村長となる。
「地頭代」の役割は「村長のようなもの」と言われることが多いので、
大田為淳は当時、初代中城間切長となった大田為淳はてっきり地頭代なのかなと思って調べたのだけれど、
「大文字(ウフティクグ)」や「勘定主取」の後に、
間切長に任命されていることが、北中城村史に記載されている。
「地方役人(じかたやくにん)」の1人であり、読み書きそろばんができた百姓と考えて問題なく、
当時、読み書きそろばんのできる百姓は名家とも言えるのではないかと思う。
公文書館に戻って、
前述の文献から当時の地方役人についてまとめておこうと思う。
【地頭代】
安里親雲上
【夫地頭】
比嘉親雲上
仲順親雲上
和仁屋親雲上
【首里大屋子(シュイウフヤク)】
安里筑上之(チクドゥン)
【大掟(ウフウッチ)】
安里仁屋(ニヤ)
【南風掟(フェーウッチ)】
仲里仁屋
【西掟(ニシウッチ)】
比嘉仁屋
※首里大屋子(シュイウフヤク)、大掟(ウフウッチ)、南風(フェーウッチ)、西掟(ニシウッチ)の4人を捌理(さばくり、方言でサバクイ)と呼ぶ。
【大城掟】
島袋筑登之
【和宇慶掟】
比嘉仁屋
【津波掟】
新垣仁屋
【奥間掟】
仲本仁屋
【当間掟】
比嘉仁屋
【屋宜掟】
比嘉仁屋
【添石掟】
名幸仁屋
【伊舎堂掟】
大城仁屋
【熱田掟】
宮城仁屋
【島袋掟】
小波津仁屋
【喜舎場掟】
新垣仁屋
【安谷屋掟】
金城仁屋
地方役人には等級があり、
第一級は地頭代
第二級は前述においては夫地頭から掟を含む11職
第三級は大文字、相附文字
第四級は最下級となる。
大田為淳は第三級の大文字と第二級の勘定主取を勤めたのちに、
初代間切長を勤めたということになる。
当時の中村家当主は仲村渠榮眞であり、最高位は仲順親雲上まで勤め上げている。
明治31年に66歳で亡くなっているので、
初代間切長を勤めるには、高齢だったのかもしれない。
この記録から推測するに、第8代当主である仲村渠榮眞は、
最高位で夫地頭の職を勤め、仲順親雲上の名前を授かったものと推測する。
中村家初代当主にあたる比嘉親雲上も最高位が夫地頭にあたる可能性もあるが、
明治13年の史料では「仲村渠親雲上」の名称がなかったり、
屋宜掟は「比嘉仁屋」とされていることから、
推測に留めておく程度が良いのかもしれない。
ただし、第8代目の【仲順親雲上】が「夫地頭」であった可能性は、
時期的なものを考えても、さして問題はないのではないかと考える。
さて、気になるところは、
明治初期において、
第8代中村家当主仲村渠榮眞は夫地頭、
初代中城間切長かつ中城村長の大田為淳は大文字・勘定主取だった可能性が高いとして、
他の役職に誰がついていたのか、
資料にも話にもなかなか上がってこない。
もちろん、江戸末期から明治初期の話なので、話者がいないにしても、
大田為淳については「大文字」「勘定主取」と、
北中城村史に記載できる程度には情報が残っているのだから、
当時の【地頭代】の情報が伝承でもよいので伝わってても良い気がするが、
そういった情報がないのも不思議なことだと思っている。
地方役人はおおよそ読み書きそろばんができただろうから、
当時、教養を身に付けることができるとなれば、名家に名を連ねても良いというか、
読み書きそろばんができなければ、下級役人はともかく上級役人は難しかっただろうと思う。
仏壇の文化はちょうど中村家の仏壇が18世紀ごろから百姓の間でも広がり始めたという考え方もあり、
中村家当主が地頭代を勤めたことがあるのは、1772年〜1863年のおよそ100年間の間になるが、
その間、ずっと地頭代を勤めたわけでもないはずなので、
その前後には別の地頭代が存在したはずなのだけれど、
先祖が地頭代を勤めたという話は、今のところ調査不足のためか目にも耳にもしない。
地頭代を勤めるような家系であれば、
中村家のように仏壇や厨子甕に名前よりも役職名が書かれていたり、
親族の中で語り継がれても良い気がするのだが、
資料になるようなものが沖縄戦で亡くなったとしても、
伝承くらいは残っていても良いのではないかと思うのだが、
別の角度からの調査も必要なのかもしれない。
今後は他の間切の地頭代などと比較して検証する必要がある。